抗リウマチ薬 MTXと副作用について

8/29 yahooニュースにて各新聞社から
産業医科大学の記事が載りました。

中でも、読売新聞の見出しは
「カルテ記載漏れで教授ら処分、リウマチ治療で死亡」
となっており、悪意すら感じます。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130829-00000607-yom-soci

記事中には
産業医科大学は「関節リウマチの治療中に悪性リンパ腫を発症するなどして患者10人が死亡する事例があったと発表」

「患者10人が死亡したのは2009年6月~昨年9月。いずれも産業医科大学病院で抗リウマチ薬の標準治療薬である「メトトレキサート(MTX)」を使用した。」

「専門医や弁護士ら5人による第三者委員会が5月10日付で同大に提出した調査報告では、「悪性リンパ腫発症の主たる原因は、免疫異常に起因するもので、MTXの影響は付随的なものに過ぎず、今回の使用は標準的治療の範囲内で、医療行為として不適切にはあたらない」とされた」

との記載があります。

読売新聞はこの見出しの影響の大きさをどれだけわかっているのでしょうか。
同じ内容を伝えるにも、文章の書き方で
どれだけ全国のリウマチ患者さんがいたずらに不安にさせられるか考えているでしょうか。

2005年にMTXによる間質性肺炎の報道があった際にも影響は大きく
内服している患者さんも不安を大きくしました。

リウマチ患者さんのブログ
http://kabopi.exblog.jp/2024634

新聞報道では、ただお薬の固有名詞と副作用や死亡の絶対数が載るだけです。
どれだけ多くの患者さんでMTXが使われていて、何%の人にそのリスクがあるか
などという書かれ方はしません。
絶対数です。

その反面
・MTXがなくては現在のリウマチ診療は成り立たないこと。
・ほとんどのリウマチ患者さんがMTXで治療していること。
・MTXは世界中で広く使われており、
 何より継続率の高い優れたお薬であること。
・生物学的製剤を使用せず、MTXだけでも
 リウマチを寛解に持って行ける患者さんが多数いること。
・現在の生物学的製剤のほとんどがMTXと併用することで
 十分な効果を発揮できること。
・間質性肺炎はもともと関節リウマチの自然経過として起こる可能性があること
・MTX以外のお薬でも間質性肺炎は起こる可能性があること
・MTXによる薬剤性間質性肺炎やリンパ節腫脹の多くが可逆性であり、
 MTXを中止すれば改善する場合が多いこと
・ほとんどのリウマチ専門医は副作用も熟知した上で抗リウマチ薬を使用しており
 そのため定期的な経皮的酸素分圧測定、胸部レントゲン、CT検査
 患者さんへの副作用症状の早期発見のための説明
 を繰り返し行っていること。
というような、患者さんを安心させる情報は
ほとんど記載されません。

MTXと肺障害について
http://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rm220/pdf/news108.pdf#search=’MTX+%E9%96%93%E8%B3%AA%E6%80%A7%E8%82%BA%E7%82%8E’

今回の産業医科大学のニュースも、
見出しの書き方ひとつで患者さんに与えるショックも変わります。

産業医科大学は日本でも有数の数のリウマチ患者さんを治療している施設で
この病院のリウマチ医たちが患者さんとともに作り上げた数々の臨床経験が
日本のリウマチ治療の道しるべとなって来たことは疑いありません。

また、同教授は自施設の優れたデータを
日本のみならず世界のリウマチ医に向けてご講演されており、
私もいつも勉強させていただいている一人です。

産業医科大学の知人に聴いたところ
今回の報道の裏には、反勢力の力が働いたこともあるようです。
そうであるとすれば、白い巨塔まがいの個人の出来事に振り回される
全国のリウマチ医、リウマチ患者さんへの影響を考えると
非常に腹立たしい思いがあります。

新聞も記事を読む患者さんの気持ちを考えて
いたずらに副作用の恐怖をあおるだけでなく
適切に現状を伝えて欲しいものです。

2013.08.31 | コメント(2)

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