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ゼルヤンツ全例調査中間報告と当院のリウマチ治療方針

ゼルヤンツ全例調査中間報告と当院のリウマチ治療方針

3年前に発売されたリウマチのお薬ゼルヤンツ 注射薬である生物学的製剤と同等の効果が得られる内服薬であるため、最近その使用状況がぐっと伸びてきているようです。
当院でも少しずつ使い始めていますが、概して早く効き、十分効きます。

今回はその3周年講演会にて全例調査の中間報告を拝聴してきました。

お薬の適応は
MTX(リウマトレックス、メトレート)を週に8㎎以上、3か月間使用してもコントロールが不良のリウマチに対して使用することになっています。
また、投与禁忌として
重度の肝機能障害
好中球500/mm3未満
リンパ球500/mm3未満
Hb8g/dl未満
が上がっています。

ORAL STANDARD試験ではMTX効果不十分症例において
生物学的製剤ヒュミラと同等の効果が示されており、
ORAL STEP試験では、生物学的製剤TNFα阻害薬(レミケード、ヒュミラ、エンブレル、シンポニー、シムジア)で効果不十分症例においても、厳しいながらも改善が示されています。(ACR20改善率 40%:プラセボ20%、3か月DAS28-4(ESR)2.6寛解達成率 6.7%:プラセボ1.7%)

また、寛解後にゼルヤンツを中止した場合、1年間で24%(約4人に1人)が寛解を維持できていたことも示されました。

発売当初懸念されていた悪性腫瘍発生の可能性については、96か月の観察にて他の生物学的製剤と比べて同等であり、ゼルヤンツが悪性腫瘍を起こしやすいという懸念は払拭されています。

特徴的な注意点としてはやはり帯状疱疹で、
生物学的製剤では0.7%~1.09%であるのに対し、ゼルヤンツでは3.8%でした。
50歳以上の女性でやや多く、日本人、韓国人で多くみられるようです。
また、複数の神経節にわたる播種性帯状疱疹も発生がみられているため、皮膚のピリピリ、ひりひりするような痛みが出現したり、皮疹が現れた時には内服をすぐに中止し、次の予約を待たずに速やかに医師に受診することが大切です。

帯状疱疹の詳細についてはこちらのサイトを参照ください。

当院でもゼルヤンツを数人の患者さんで使い始めています。
生物学的製剤で注射部位反応などの副作用が出てしまう方
生物学的製剤が効果不十分な方
などで使用し始めましたが、概してリウマチのコントロールはよく、
現在では生物学的製剤の注射薬と同様に患者さんに選択していただいています。

当院の方針としては
まずはリウマチ治療の基本であるMTXを16㎎まで速やかに使用すること。
副作用(採血の異常、嘔気、だるさ、脱毛など)でどうしてもMTX単体でリウマチがコントロールできない場合には
1.まだまだリウマチの勢いが強いとき
  生物学的製剤またはゼルヤンツをお勧め
2.だいぶリウマチの勢いが弱まっている時
  MTX、ゼルヤンツ以外の経口内服薬の併用をお勧め
しています。

また、生物学的製剤は基本的に自己注射薬を使用しています。
リウマチが寛解に入った場合には2か月分処方することで、患者さんの来院(採血)頻度も少なくしてあげられるメリットがあります。
また、投与間隔延長や、投与量の調節などもしやすいメリットがあります。

生物学的製剤の選択としては
1. MTXが10~12㎎以上内服できている場合
  ヒュミラ
2.MTXが8㎎までしか内服できない場合
  エンブレル、アクテムラ、オレンシアから選択する
3.MTXが全く飲めないとき
  アクテムラ、オレンシアから選択する
  としています。

ヒュミラはMTXが十分に内服できると強い効果を発揮します。早期の関節リウマチ患者さんで、速やかに寛解に持ち込み、ヒュミラを中止するBIO-freeを目指す場合に選択することが多いです。価格が他のお薬よりも高いところが難点です。

エンブレルは安定した効果が得られ、寛解が得られれば半量投与にできる点が良いところです。
妊娠希望の患者さんではMTXを中止して、エンブレル単体でコントロールできるのが非常に特徴的です。

アクテムラはMTXを減量、中止しやすい特徴、またMTXが内服できない患者さんでも十分に効果を発揮する特徴があります。
CRPや血小板が高い症例ではよく効くのではないか、と言われています。
また、価格もほかの生物学的製剤に比べて安いため、経済的な点からも選択しやすいお薬です。
アクテムラはほかの生物学的製剤が効果不十分だった時にも効果を期待できるお薬です。

オレンシアは感染症のリスクが他よりも低い特徴があります。最近ではリウマチ因子(RF)が高い症例ではよく効くのではないかといわれています。MTXが飲めない方でも良好な効果が期待できます。

認知症やMTXの内服方法が理解できない方には、月に1回来院して当院で注射を行うシンポニーを選択しています。

シムジアは使用開始時に高濃度(2本)の投与ができ、炎症部位に集積しやすい性格を持つため、非常に勢いの強いリウマチや、他の生物学的製剤が効果不十分な時に良い適応となると思います。また、エンブレルとともに妊娠希望の患者さんにも選択できるお薬です。

ゼルヤンツはMTXの量に関わらず、MTX8㎎以上で効果不十分だった時に、注射がどうしてもいや、という患者さんに選択していただくことができます。価格はヒュミラと同等で一番高いのがデメリットですが、経口内服薬で生物学的製剤と同等の効果というのが最大の特徴になります。

いずれにしても、採血データ上の炎症だけに惑わされず、丁寧な触診と超音波診断を用いて、小さな関節一つに至るまでしっかりとリウマチをコントロールして、関節が壊れないリウマチ治療を行うことが当院の治療方針です。

この記事の執筆者プロフィール

さいとう整形外科リウマチ科

院長 斎藤究

さいとう整形外科リウマチ科 院長 斉藤究

院長紹介

日本整形外科学会専門医・日本リウマチ学会専門医・日本整形外科超音波学会会員

経歴

1999年

国立浜松医科大学卒 国立国際医療センター 内科研修医

2001年

東京災害医療センター 救命救急レジデント

2002年

刈谷総合病院 整形外科

2006年

名古屋医療センター 整形外科リウマチ科 /
名古屋医療センター 卒後教育研修センター指導医

2010年

Los Angeles Veterans Affairs hospital留学

2011年

さいとう整形外科リウマチ科平和が丘に開院

主な著書

あなたも名医! 運動器エコー 痛みの臨床など6著書(共著含む)

PROFILE

さいとう整形外科リウマチ科 院長 斉藤究

日本整形外科学会専門医日本リウマチ学会専門医日本整形外科超音波学会会員