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「妊娠・授乳中の抗リウマチ薬」セミナー
新宿の京王プラザホテルで開催された
国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター
開設7周年記念フォーラム
今回の目玉である、リウマチと妊娠研究の世界的第一人者
ノルウェー トロンハイム大学病院教授のMonika Østensen先生のご講演
「妊娠・授乳中の抗リウマチ薬」
を拝聴いたしました。
今回の記事では、セミナーで学んだ内容を抜粋してまとめます。
妊娠と関節リウマチの関係
リウマチを発症して間もない時期や、病状のコントロールが不十分な状態での妊娠はリスクが高いため、妊娠を延期し、十分に病状が安定してから妊娠を考えることが推奨される。
妊娠初期の抗リウマチ薬のリスク
妊娠初期の3か月間にMTX(メトトレキサート、5-20mg)を使用した100例以上の報告のうち、5例で先天奇形が報告されており、リスクは5〜10%とされる。
とくに6-8週目での暴露が危険。
TNF阻害薬と妊娠
炎症性腸疾患やリウマチでのTNF阻害薬使用下で妊娠した例も報告されている:
– レミケード 327件
– エンブレル 302件
– ヒュミラ 105件
– シムジア 139件
– シンポニー 報告なし
そのうち170例は妊娠期間中を通して使用
流産・未熟児・先天奇形のリスク上昇は確認されず。
さらに以下のような比較研究でも、先天異常の増加は認められていない。
- ヒュミラ
42人のヒュミラを使用したRA妊婦と58人のヒュミラを使用していないRA妊婦
84人の健常妊婦を比較 - エンブレル
137人のエンブレルを使用したRA妊婦と67人の使用していないRA妊婦を比較
いずれも先天異常の増加は認めず。
母乳について
NSAIDS、プレドニン、アザルフィジン、プログラフは授乳中でも児への影響がないとされている。
MTX、オレンシア、アクテムラはデータが乏しいため、授乳中は避ける。
TNF-α レミケード、エンブレル、ヒュミラは母乳中に低用量で検出されるが、児に影響なし。
妊娠中の薬剤の胎盤移行と新生児への影響
TNFはFcレセプターを介して胎盤を通過する。
TNFを妊娠中に継続して出産した新生児の長期成績はまだないが、
新生児の血中TNF濃度が高い場合には易感染性に注意が必要になる。
妊娠後期にTNFを使用した場合には出生後6か月は生ワクチンの接種を避けることが推奨される。
専門家の見解(Expert Opinion)
TNFα阻害薬は妊娠が発覚したらすぐに中止。
RAの活動性が非常に高い場合には妊娠20-30週までは使用が許容されるケースもあります。
出産後の新生児の長期成績はまだ不明。
その他の薬剤についての知見
– アクテムラ、オレンシア:人での安全性データはなく、動物実験のみ。
– アザルフィジン:葉酸と拮抗するため、使用中は葉酸の併用を。
– プログラフ:約250例の妊娠報告があり、先天奇形や流産リスクの増加は確認されていません。
妊娠中にリウマチが悪化した際の対応
– 関節内にステロイドの注射。
– 経口ステロイドNSAIDS(妊娠32wまで使用可。それ以降は容量依存性に児の腎障害、動脈管開存リスク)
– 経口ステロイド:15㎎/日以上は副作用リスク
母:糖尿病、高血圧、骨量減少
子:口唇口蓋裂、発達遅延、未熟児
男性における薬剤の影響
アザルフィジンは男性不妊のリスク
妊娠計画の3か月前に中止を。
低用量MTXは100症例の報告で異常は見られていない。
TNF阻害薬も妊孕性、遺伝子異常に関与しない。
パネルディスカッションでの議論
また、最後のパネルディスカッションでは
- 多くの薬剤は、危険性が証明されたためではなく、
データが十分でないことから禁忌とされてしまっている。 - MTXは女性においては1月経周期を中止すれば問題ないと思われるが、
リコメンデーションなどでは3か月中止する旨書かれており、
インターネットなどから患者が3か月と読んでくると、
医師としても対応に困ることがある。 - 男性においてはMTXをやめる必要はない。
- Østensen先生は、妊娠希望のあった場合にはステロイドを使う。
しかし、活動性に応じてTNF製剤を考慮する。
などが話し合われていました。
最新のリウマチと妊娠、出産にかかわるお話を
網羅的に聞くことのできた、有意義な会でした。
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一人一人の妊娠情報をもとにして
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