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関節リウマチと関節エコー検査

関節リウマチと関節エコー検査

今日は第4回日本関節エコー研究会のwebセミナーに参加しました。

JAK阻害薬が出現して、現在5剤が使用可能となっていますが、このJAK阻害薬は患者さんのPRO(Patient Reported Outcome)を改善する効果も高いとキャンペーンされています。

PROとは、要するに患者さん自身が感じている症状のことです。

いうまでもなく、太古の昔から患者さんの訴えがあって、それを改善・治癒に導くために医療が提供されてきました。

今更何をPROか、という感じもしますが、関節リウマチ治療においてはレミケードに始まる生物学的製剤の登場、日本におけるMTXの投与上限の引き上げ、そして近年のJAK阻害薬の登場と、薬物治療の目覚ましい進歩によりお薬をちゃんと使っていれば、関節の痛みや腫れも落ち着き、将来関節が壊れてしまわないように寛解~低疾患滑動性を維持することは現実的なゴールとなりました。

この現実的なゴール:寛解~低疾患滑動性を目指そう、という動きは、Treat to Targetと言われ、薬物治療の進歩とともに、早期診断が重要視されるようになりました。

生物学的製剤が登場するまでは関節リウマチと診断されれば多くの患者さんで関節が壊れていくのを待つだけであったことを考えると、関節破壊をストップし、寛解を目指すことのできる生物学的製剤の登場はパラダイムシフトと呼ばれました。そして医師は、何とか関節が壊れていく未来を食い止めようと、次々に発売される薬剤を駆使してリウマチと戦ってきたのです。

では、寛解~低疾患滑動性を達成できれば、リウマチは治った!と言えるのかといえば、患者さんの感覚と医師の評価のずれが指摘されるようになりました。

様々なお薬を駆使して医師による触診や採血では異常がなく、レントゲンでも進行が見られなくなって「寛解」とされていても、患者さんは、

・医師には関節の腫れは消えたといわれたが、まだ痛みが残っている。

・なかなかリウマチになる前のようには働けない。

・痛みは消えたが、だるさがつらい。

・関節の動きが悪くなってしまった

など、様々な自覚症状が残っていたりします。

ここで、PROが重要視されるようになってきた経緯があります。

リウマチ治療のゴールはどんどん高いレベルにひきあがってきたのです。

では、その患者さんの感覚と医師の評価のずれはどのようなところで生じるかと言えば、

1. 医師が採血結果に依存しすぎている

2. そもそも手指・足趾の全関節を触診していない。触診技術が未熟。

3. 触診はしていても、超音波検査を行っていない。

4. 超音波でも完全に関節滑膜炎は沈静化していても、リウマチ以外の症状が残っている。

1については、CRPは炎症反応を表していますが、リウマチについては非常に鈍感な検査です。強い炎症がないと陽性にならないため、CRPが陰性でも関節滑膜炎の活動性が残っているリウマチはたくさんあります。

2については、リウマチ専門医でも足を触っていない先生もいらっしゃるので、触りなれないと見逃してしまいます。特に、母趾、5趾(足の小指)の側面や、足底の所見については必ず触っておく必要があります。

3については、医師の触診技術の未熟さだけでなく、触診ではわかりにくい滑膜炎もあるため、押さえて痛い関節や腫れている関節は一度関節超音波検査を行っておくとよいでしょう。触診と超音波でのドップラー所見は食い違うことがよくあります。特にとても全身のリウマチの活動性が強いときよりも、発症の超早期や寛解に近い時期など、活動性が低い時こそ、超音波で確認する価値が高まります。また、足趾関節では触診の精度が落ちますし、患者さん自身の痛み感覚も手よりも鈍いため、超音波を行わないと活動性滑膜炎が見逃されがちです。

4については、超音波でも関節滑膜炎は完全に沈静化していますが、リウマチ以外の痛みを伴っている場合です。これは、すでにリウマチで関節の軟骨や骨が壊されてしまっている痛みのほか、リウマチではない人でも普通に起こすことのある整形外科的な痛みのことがよくあります。

整形外科的な痛みについては、やはりリウマチ内科の先生よりも、整形外科医師や理学療法士が得意とするところです。

先日横浜のリウマチ内科医の先生とディスカッションした際にも、リウマチが超音波寛解している場合に患者さんの痛みが残っていれば、整形外科医と連携してリハビリや治療を行っているといわれていました。現在通院中の先生がリウマチ内科の先生であれば、超音波を行ってもらい、活動性滑膜炎がないのであれば理学療法士さんのいる整形外科を受診するとよいでしょう。

さらに、MPS(Myofascial Pain Syndrome:筋膜性疼痛症候群)を理解している先生に受診すると、レントゲンやMRIではわからない体の痛みを理解してくれると思います。

筋膜性疼痛は、筋肉の使い過ぎや慢性疲労により筋肉が硬くなったり、神経の動きが悪くなったりすることにより起こってくる痛みです。

僕も第3回日本関節エコー研究会で講演させていただきましたが、リウマチ患者さんにおけるMPS治療は、まずは関節エコーで活動性滑膜炎ではないことの確認。そして、教科書的な整形外科疾患ではないことの確認。最後に、MPS診療を行うことのできる知識と触診・診察技術・エコーガイド下に正確に注射(ハイドロリリース)することのできる技術が必要です。

MPSは、リウマチ患者さんのPROと医師の評価のずれの大きな要因となっていると考えられます。

リウマチを関節エコーも用いて早期に診断し、十分な薬物治療を行って寛解に持ち込み、残った症状については整形外科的、理学療法的に解決する。特に、リウマチで関節が壊れる前に十分な治療ができれば、自分が関節リウマチであることを忘れられる状態:患者さんの考える真の寛解に至ることも稀ではありません。

現在ご自身のリウマチ症状に悩まれている方は、全身の関節所見や筋肉の所見を正しくとってもらうこと、関節超音波を行ってもらうこと、必要に応じてリハビリやハイドロリリースを行うこと、を考えてみてくださいね。

さいとう整形外科リウマチ科

院長 斉藤 究

愛知県名古屋市名東区平和が丘1-10

TEL 052-776-3110

PROFILE

さいとう整形外科リウマチ科 院長 斉藤究

日本整形外科学会専門医日本リウマチ学会専門医日本整形外科超音波学会会員